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最高裁判所第三小法廷 昭和58年(オ)1377号 判決 1984年6月26日

上告人

栗原昭治

右訴訟代理人

岡部勇二

被上告人

右代表者法務大臣

住栄作

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岡部勇二の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及び説示に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(木戸口久治 伊藤正己 安岡滿彦)

上告代理人岡部勇二の上告理由<省略>

<参考・原審引用の第一審判決理由>

二 請求原因2の事実、すなわち、本件保釈保証金返還債権の帰属について判断する。

1 請求原因2の事実のうち、岡部弁護人が、昭和五〇年四月九日に東京地方裁判所昭和五〇年(ワ)第一一三二号贈賄被告事件について保釈保証金として一〇〇万円を納付したことは当事者間に争いがない。

2 <証拠>によれば、原告の前記贈賄被告事件について弁護人であつた岡部は、昭和五〇年四月八日、弁護人として東京地方裁判所に対し、原告の保釈を請求し、同裁判官稲田保は、右請求に基づき、翌九日、岡部に対し、保釈保証金として二〇〇万円の納付を命じ、うち一〇〇万円については岡部提出の保証書をもつて充当することを許可したうえ、保釈を許可する旨の決定をしたことが認められる。

3 ところで、刑訴法は、被告人のほか、弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹を保釈請求権者と定め(八八条一項)、保釈保証金の納付を保釈の必要的条件としている(九三条一項)。被告人以外の者の請求により保釈が許可された場合においても、その効果は直接に被告人に及ぶものであるけれども、保釈保証金の納付義務を負うのは、刑訴法九四条二項で特に保釈保証金の代理納付の制度を設けていることに照らして考えても明らかなとなり保釈請求者というべきである。したがつて、保釈保証金納付に伴う法律関係は、納付者と国との間に直接的に生ずるものというべきであり、よつて、その返還債権も納付者、すなわち、代理納付が許可された場合を除き、保釈請求者に帰属するものというべきである。

この理は、保釈請求者が被告人の包括的な代理権者というべき弁護人である場合にも何ら変わることはなく、仮に実質上の出捐者が被告人であつても、弁護人が国庫から還付を受けた保釈保証金の返還を弁護人に請求できることは格別、被告人には国に対する保釈保証金の返還請求権は認められないというべきである。

4 そこで、本件をみるに、前記1及び2の各事実によれば、本件保釈保証金返還債権の権利者は岡部であるというべきである。

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